窓をあける
~習い合わさることのたま~
Variable size
2025
サイズ可変
2025年
(アーツカウンシルしずおか・2024年度アートによる空き家活用パイロット事業「fresh air」)
湧水に恵まれ、古くから水の都と呼ばれてきた三島。
伊豆半島の基部に位置し、いつの時代も多くの人々が集い、かつては東海道の宿場町として栄えた三島。
その恵みの基層をなす富士山の存在。伊豆半島が本州に衝突して以来繰り返されてきた噴火の歴史は、水と火の信仰へとつながりました。その信仰の源流は、様々な幾多の時代の層ごとに、往来する人々の精神や文化と習い合わさりながら、今この瞬間も、意識の底深くに、ほとんど自覚されることなく流れています。
私は、本プロジェクトにおいて三島に数日間滞在し、地域住民の方々との対話を拠り所にして、地形の成り⽴ちや地名との関係をさぐり、神話や伝承の調査・踏査を行いながら「空き家」について思いを巡らせます。対話で語られる言葉、地名や文献に残る言葉などから文字を拾いあげ、その文字を一字一字、その音を一音一音、紐解いていきます。
「窓を開ける」という日常で繰り返す何気ない行為は、この街の底深くを流れる水と火の信仰の源流を辿る拠り所になるかもしれない。
例えば、使われなくなった部屋の独特のにおい。窓をあければ外の空気が室内に侵入し、混ざり合う。室内に風が生まれ、ゆっくりと宙を舞う埃は陽の光に照らされる。その光景は、この街が幾多の時代ごとに、往来する人々の精神や文化が習い合わさりながら醸成されてきた様子と重なるのかもしれない。
作品は、三島での滞在経験をもとに言葉を紐解き紡ぐ試みを、映像を中心に、光や風、水、音、声などを織り交ぜて構成されます。その日の天候や時間の変化に応じて刻々とその表情・状態を変えながら互いに結びつき、鑑賞者に語りかけるでしょう。窓を開けたら混ざり合う内と外の空気のように。

作品1:

In dreams begin the responsibilities
細かく刻まれた短冊状のカーテンが、窓から入る自然光と風をうけ、展示室内にアクセントをあたえている。
よく見ると不自然に折れ曲がったりカーブしていたりしていて、それらがアルファベットの形に加工されていることに気付く。
これらの文字群は、アイルランドの詩人W.B.イェーツの詩「In dreams begin the responsibilities」と記されている。平たく訳せば、「夢の中から責任は生ずる」。逆に言えば、想像力のないところに責任は生じないのかもしれない。
作品2:

こをろこをろにかきなして
三島は「御島」に由来するという説から着想した作品。
富士山で採取された溶岩から、「ひ」「ふ」「み」と一音ずつ発せられ、音に合わせて光が明滅する。
「御島」を記紀神話における「島生み」と、言葉のもととなる音が生まれる瞬間を重ね合わせた表現を試みている。
作品3:

thermochromic drawing
室温の変化に応じて色面が発消色する絵画。
天候や時間帯による室内温度環境の変化にともない緩やかに発色/消色しながらその表情を変えていく。
下地面と表層面の二層で構成されており、色面は手のひらで描かれている。
手の平均的な表面温度25℃前後を基準とし、通常は淡い色を保っている。表層面が15℃前後を下回ると徐々に色は濃くなる。
作品4:

thermochromic painting (八父韻)
キャンバスに描かれた「チ」「イ」「キ」「ミ」「シ」「リ」「ヒ」「ニ」は、日本語における8つの父韻を示す。
父韻は、音声学でいう子音であり、まだ言葉としては認識できない状態をさす。チ(T)、イ(Y)、キ(K)、ミ(M)、シ(S)、リ(R)、ヒ(H)、ニ(N)これらの父韻と母音が結ばれると子音が生まれる。
母音と父韻が合わさることで子音が生まれる特性と、記紀神話における「国(島)生み」とを重ね合わせる表現を試みている。
室温の変化に応じて色面が発消色し、天候や時間帯による室内温度環境の変化にともない緩やかに発色/消色しながらその表情を変えていく。
作品5:

窓をあける ~習い合わさることのたま~
作家(清水)は、三島に数日間滞在し、「空き家」について思いを巡らせる。
三島の地形の成り立ち、富士山の噴火を基層とする水と火の信仰、住居、住まいの変遷、そして「空き家」という存在について。
地形と信仰の変遷、神話や伝承に関する調査・踏査を通じて、地名や文献に残る言葉などから文字を拾いあげ、その文字を一字一字、その音を一音一音、紐解き、言霊的に読み解きながら意味を紡いでいく。
作品6:

ことむけやわす
「ことむけやわす」とかたちづくられたホースのなかを水が循環している。15分毎に作動する水流は、はじめは泡立ち振動を伴うが、徐々に安定し、次第に水が流れていることが分からないほど穏やかになっていく。
「ことむけやわす」とは「言葉で説いて人の心を和らげて穏やかにする」といった意味合いをもつ古事記にも記載がある(言向和平)大和言葉。「言向く(ことむく)=ことばで説いて従わせる、平定する。」と「和す(やわす)=やわらげる、平和にさせる」が合わさった言葉といえる。
水流とともに「言(こと)」と「事(こと)」の間で揺れ動くその様は、彫刻化された言霊とも解釈できるだろう。
作品7:

いつく、とつく
五十音図が書かれたルービックキューブが、碁盤の目をした床タイルの上の囲碁盤の上に置かれている。
日本語の清音を母音と子音とで分類し、仮名文字を縦横の表に並べた五十音図の起源は、紀元前4世紀以前にまで遡るといわれる。
「あ」「か」「さ」「た」「な」「は」「ま」「や」「ら」「わ」という並びに沿って、舌や唇による、口腔の狭め(閉じ)の度合いが、規則的に配列されている。五十音図のタテ5音をそろえることを「いつく」、ヨコ10音をそろえることを「とつく」という。
五十音図は、いつき、とつくことで整えられた条里空間と言える。全面そろえることが出来れば、3種の50音図が完成する。
床のタイルは三島の街を形成する条里制によって形成されたグリッドを、囲碁盤は奈良時代に日本に暦を持ち帰った吉備真備の逸話を、その上に置かれた50音図は、街での人の営みをあらわす。
作品8:

文字に関する覚え書き
活字は「活きた字」と書く。なのに文字は死んでいる。死んだ文字を読み返すことで蘇るとしたら、文字はある種の器、あるいは身体、あるいは建築と見立てることができる。ならば死んだ文字は、ある意味で「空き家」的な存在だとも解釈できるのでは?、という作家(清水)による考察の覚え書き。
作品9:

地名にふれる
1月26日に行ったワークショップ「地名にふれる」。三島市周辺の地形を表す赤色立体図に河川、道路、鉄道を重ねた地図の上に、地名のきり文字を置いていく。
作品10:

日本住宅の発展系譜
西山夘三の『日本のすまい』における図版「日本住宅の発展系譜」をポストカードにしたもの。
作品11:

逆さ時計
ありふれた日常風景の一部のように壁面に時計がかけられているが、よく見ると時計の針は逆戻りしている。
文字盤が左右逆になっていて、現在の時間を示している。戻りながら進んでいるように見える逆さ時計は、過去に想いを馳せながら未来に進むということを暗示する。
作品12:

三島市周辺の高低差地図
三島市周辺の高低差を色分けして表した地図。
富士山による溶岩流と、土石流によって形成された地形を読み取ることができる。
青く表示されている場所は、縄文海進のときに海だったとされている地域と重なる。
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Documentation(video):https://youtu.be/BB245qaQYio?si=XeP4Aw3x-Ow62_W4